ゾーン
よく、トップアスリートが「ここぞ」という
大舞台で力を発揮した時に、「打つ時にボー
ルが止まって見えた」とか「周りがスローモ
ーションに見えた」という言葉を口にするの
を耳にしたことはないだろうか。この「覚
醒」とも言える超集中時に最大限の能力を発
揮している状態を「ゾーン」と呼ぶ。
「ゾーン」へ入るまでには、医学博士の石川
善樹先生によると、「3つのステップ」があ
るという。①「極度のストレスを感じる」、
②「一気にリラックスする」、③「やるべき
行為に集中する」。「火事場の馬鹿力」とい
う言葉があるように、人間は恐怖を感じるぐ
らいのストレスがある時に能力を発揮しやす
くなる。さらに「開き直る」ぐらいにリラッ
クスして、やるべきことだけに集中すると
「ゾーン」に入りやすくなるのだ。
学生時代(高校生まで)、勉強が苦手な私は
試験期間になるといつも憂鬱になり、なかな
かテスト勉強が捗らないまま気がつけば翌日
が試験日となって、「尻に火がつき」一夜漬
けし、なんとか赤点を間逃れるということの
繰り返しだった。(決して真似しないように)
試験終了後にいつも、「1ヶ月前から一夜漬
けしている時のような集中力で勉強できたら
100点とれるのでは?」と思うのだが、毎回
試験前日でないと集中して勉強ができない学
生だった。今思えば、これは勉強しなければ
赤点をとってしまう「極度のストレスによる
集中力」だったのではないだろうか。(そこ
まで追い込まれないと勉強ができない情けな
い話だが)
また、久しく会ってない友人と食事をする時
は、待ち合わせ前から変な緊張感があり、初
めはお互い、しどろもどろで会話が弾まない
のに、30分も経てば昔話で盛り上がり、会話
が弾むのは、緊張から「一気にリラックス」
状態になったからだろう。(ストレスの種類
が違うが、緊張からの解放という意味では本
質は近いのではないかと考える)
人生の「ここぞ」という場面(進学・就職・
昇進試験、仕事でのプレゼン、選手の価値が
問われる試合など)というのは、非常に大き
なプレッシャーがかかっている場合がほとん
どだと思うので、「リラックスしようと」変
に心がけるよりも「極限のストレス」を受け
入れて、本番直前に「どうにでもなれ」と
「開き直る」ぐらいが最高の集中力が発揮で
きるのかもしれない。(さらに、目標と自分
のレベルが合致し、やるべきことだけに集中
できた時に)
棋士の羽生さんも、「どういう状態で一番良
いパフォーマンスができるかと言うと、やは
りリラックスして落ち着いて楽しんでいる状
況であり、二番目はプレッシャーがかかって
いる状態」「しかし、毎回リラックスしてや
れるかというのは難しいと思います」「私自
身も一番集中している時はいつだと訊かれた
ら、やはり公式戦で待ったができず、時間が
切迫して来てプレッシャーがかかる時点が一
番集中できますし、一番たくさんのことを読
むことができます」(著書、「闘う頭脳」よ
り)と、述べている。
「言うは易し行うは難し」なので、意識的に
「ゾーン」状態になるというのは簡単ではな
いかもしれないが、「ゾーンの3ステップ」
を頭にいれ、普段から自分の癖を把握し、自
分なりの方法論を見つけるだけでも結果が変
わってくるかもしれない。私は今度のデナリ
が絶好のチャンスなので「ゾーン」に近づけ
るか実験してみようと思う。
(参考文献)
ゾーン(究極の集中状態)に入るための3つ
のステップ。「ストレス」「リラックス」
「集中」(前編),industry co creationI
http://industry-co-creation.net/2016/03/17/icc-connection-2016-session3-part1/,(参照 2016-4-30)
羽生善治(2016),「闘う頭脳」,文春文庫,
P79〜81